

『目的ドリブンの思考法』(望月安迪著)について
本書は戦略コンサルタントとして活躍する著者が、自身の経験と理論をもとに「まず目的から考える」思考の重要性と、その実践方法をまとめたものです。「目的→目標→手段」を一貫させることで、やみくもな努力を減らし最短で成果に繋げる方法論が示されています。各章で考え方の解説→ケーススタディ→解決策の提示という構成を取り、理論と実践のギャップを埋める丁寧な内容になっています。


変化の時代に必要なフレームワークとは
現代社会はVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)と形容されるように、先が読みにくく変化が激しい環境が広がっています。テクノロジーの進化、価値観の多様化、グローバル化の進行により、従来の延長線上にある思考や戦略では通用しづらくなってきています。こうした環境では、ただがむしゃらに努力するのではなく、「目的」「目標」「手段」の三層構造を明確にし、戦略的に動くことが求められます。
この考え方は単なるビジネス戦略にとどまらず、自分自身のキャリア設計、日常の意思決定、人間関係の構築に至るまで、幅広く応用可能な汎用フレームワークとして活用できます。
まず定めるべきは「目的」
あらゆる行動や意思決定の出発点となるのが「目的(Why)」です。目的とは、自分が実現したい未来や、成し遂げたい社会的意義のある状態を示すもので、行動のエネルギー源になります。明確な目的がなければ、日々の行動は場当たり的になり、方向性を見失いがちです。目的は「ありたい自分像」や「社会に提供したい価値」など、本質的な問いを通じて見出されるべきです。
例えば「人の役に立ちたい」「環境問題に貢献したい」といった価値観や意志が目的になります。目的が定まることで、あらゆる意思決定の軸がブレず、長期的な動機づけを維持することが可能になります。
目的を具体化する「目標」
明確な目的を設定した後は、その目的を現実的なレベルで具体化する必要があります。それが「目標(What)」です。目標は数値化できる、期限がある、進捗が測定可能であるという特徴を持つべきで、SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)な設定が推奨されます。
例えば「グローバルに活躍できるビジネスパーソンになる」という目的があるとすれば、その実現のために「TOEICで800点以上を取得する」「海外のビジネススクールへの出願準備を進める」など、複数の中間目標が設定されます。こうした目標があることで、漠然とした目的が具体的な行動計画へと変換され、進捗管理が可能になります。
目標達成を可能にする「手段」
次に重要なのが「手段(How)」です。手段とは、目標を達成するために選択する具体的な方法や行動のことです。これはタスクや実行可能なステップに該当します。例えば「英語力を向上させる」という目標の手段として、「毎日30分間オンライン英会話を行う」「英語のニュースを毎朝読む」などが挙げられます。
ただし、手段が目的や目標から乖離してしまうと、本来の意味を失ってしまいます。これを「手段の目的化」と呼びます。つまり、手段自体が目的化してしまい、行動の本質を見失う危険があるのです。そのため、定期的に手段を見直し、目的と目標に沿っているかを確認する必要があります。手段はあくまでも柔軟であるべきであり、変化に応じて修正できるものでなければなりません。
手段を支える5つの基本スキル
目的、目標、手段という三層構造を実効性のあるものにするためには、それを支える「5つの基本スキル(基本動作)」の実践が重要です。これらはPDCAサイクルやデザイン思考とも親和性があり、ビジネスや学習の現場で汎用性の高いスキルセットです。
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認知:現状と理想とのギャップを正確に認識し、本質的な課題を抽出する力。問題設定の精度が成果に直結します。
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判断:複数の選択肢の中から何を選び、何を選ばないかを迅速かつ論理的に決定する力。優先順位付けとリスクの見極めが鍵です。
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行動:決定した方針に基づき、計画を具体的なタスクへと落とし込み、実行に移す力。実行力は成果を生む源です。
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予測:現在の行動が将来にどのような影響をもたらすかを見通し、リスクやチャンスに対して事前に手を打つ力。
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学習:実行した結果をフィードバックとして受け止め、次の行動に活かす力。経験を知識化し、応用可能な知見として蓄積する力です。
これらのスキルを循環的に磨くことで、成果を生み出し続ける「自己改善型の行動様式」を築くことができます。
「目的と行動のズレ」がもたらす機会損失
成果が出ないケースの多くは、目的・目標・手段のいずれかが不一致であることに起因しています。たとえば「社会に貢献したい」という目的があるにもかかわらず、短期的な業績評価や昇進のための行動ばかりを優先してしまえば、長期的な満足感や充実感が得られません。
また、目標と手段が合致していない場合も注意が必要です。例えば「健康を維持したい」という目標に対して、無理なダイエットや極端な運動に偏ると、かえって逆効果になりかねません。だからこそ、3層の思考を定期的に振り返り、整合性がとれているかどうかをチェックすることが欠かせません。
日常生活やキャリア設計にも応用可能
この「目的→目標→手段」のフレームワークは、日常生活や学生のキャリア形成にも幅広く応用できます。たとえば、「将来は教育分野で活躍したい」という目的を持つ学生であれば、「教育学部のゼミで研究発表を行う」といった目標、「教育関連のボランティアに参加する」「教育系NPOでインターンをする」といった手段を選ぶことができます。
このように、自分の価値観や意志を出発点とし、具体的なアクションへと分解するプロセスを習慣化すれば、キャリアの選択や人生設計にも明確な指針が持てるようになります。また、目的に向かって進む過程そのものが自己成長に繋がり、外的な成果だけでなく、内面的な充実感も得られるようになります。
まとめ
「目的→目標→手段」の三層構造をベースにした思考法は、自分自身の行動や判断に一貫性をもたらし、長期的な成果と満足を両立させる鍵となります。そして、その構造を支える5つの基本スキルを日々磨くことで、変化の激しい時代においても柔軟かつ持続的に成果を生み出せる人材へと成長していくことができるのです。
この戦略的思考フレームは、専攻分野の学びを深めるうえでも、社会に出た後のリーダーシップや課題解決力を高めるうえでも、非常に強力な武器となるはずです。今この瞬間から、「なぜそれをやるのか?」という問いを大切にし、自分自身の行動設計に活かしていきましょう。


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